得意淡然 失意泰然
表題は、私が若い頃ある先生に教えて頂いた言葉です。『得意淡然(トクイタンゼン)』とは、得意な時、物事がうまく行って居る時、あるいは絶頂の時に、淡々と振る舞い、決して奢らず、常に謙虚に、冷静沈着に行動することです。反対に『失意泰然(シツイタイゼン)』とは、失意の時、物事がうまく行っていない時、逆風に逆らって向かっている時、あるいはどん底の時に、悠然と構え、何事にも動ぜず、ゆったりと落ち着いて行動することです。長い人生の中ではこの『得意と失意』が必ず交互にやって来ます。
私自身、この言葉がずっしり重く心に響いてくるようになったのは、管理職についた頃でした。仕事の責任が大きくなるにつれ、ますますこの言葉が胸に大きくなり、自分自身に対して、何度も何度も繰り返し言い続けたものでした。経営者になった頃は、それが当たり前のように、得意と失意が交互に(よく考え、振り返ってみると、失意ばかりかもしれませんが)やってくるようになっていました。経営者は、常に多くの人の目にふれます。様々な意見の中から、最善の判断とは何か、最善の方向はどちらか、最善の対応はどれか、を冷静に見極め、自らの意見として決定します。こんな時この『得意淡然 失意泰然』を思い起こします。得意である時に淡然とふるまうことはさほど困難ではありませんが、失意の時、一人泰然と振る舞うことは大変難しく、辛く、苦しいことです。しかし経営者はそれを乗り越え、広く深く遠く考え、進路を決定しなければなりません。当たり前ではありますが、こんな時この『得意淡然 失意泰然』が役にたちました。人間は生まれてから死ぬまで、山あり谷あり、多くの荒波にもまれて、いろいろなことを乗り越えて、生きていかなければなりません。是非皆さんもこの言葉を覚えて多くの困難を乗り越えていただきたいものです。
ここで【瀬戸内寂聴】さんの講演でのひとこまを紹介します。【瀬戸内寂聴】さんが大勢の聴講者の方達にこう言いました。「皆さん目をつぶって下さい。」全員、目をつぶると「皆さんいいですか。皆さんの中で、私だけどうしてこんなに苦労するんだろう。と思っている人だけそのまま、静かに手を挙げて下さい。」寂聴さんはここでしばらく間をとります。「皆さんそのまま聞いて下さい。人間は長い人生いろいろあります。辛く苦しいことも多くあります。また楽しいこともあります。しかし私達は、ほとんどの人が、なぜ自分だけ、こんなに苦労するんだろうと思っているんですよ。いいですか、そのまま目を開けて下さい。」寂聴さんの言うとおり、皆、自分だけ手を挙げているのかと思って目を開けると、参加者全員が手を挙げていました。
人間は、ほとんど全員が、廻りの人に比べて「自分だけ、どうしてこんなに苦労するんだろう」と思っているのです。皆さん、みんな一緒です。『得意淡然 失意泰然』で『働楽高信』を突き進めて行きましょう。