究極の選択
表題は先月のこのコラムで紹介した、【コロンビア大学教授シーナ・アイエンガー】の授業の中で知った言葉です。衝撃的な選択をした実例で、アメリカ国民に強烈な印象を与え、後に映画化もされました。生きるか、死ぬかの瀬戸際で究極の選択をせざるを得ない中、人間はどんなに強くなれるかの実話です。
【アーロン・ラルストーン】という登山家の究極の選択です。【アーロン・ラルストーン】は1975年インディアナ州インディアナポリスに生まれ、カーネギーメロン大学に入学、機械工学とフランス語を専攻し首席で卒業しました。その後インテルにエンジニアとして就職しましたが、2002年に登山に専念するため退社し、当時まだ誰も達成していなかったコロラドにあるおよそ4,200メートル以上の山、全てを冬季単独登頂することを目標としました。事故は2003年4月に起こりました。ユタ州東部のブルー・ジョン・キャ二オンを登山している時、渓谷内で挟まっていた岩が突然落ちて彼の右腕前腕部を挟んでしまいました。彼は今回の登山の計画を誰にも話していなかったことから、誰も助けに来ないだろうと想像していました。彼は自分の死を覚悟しましたが、残っていた150mlの水を少しづつ飲みながら、何とか脱出できないか何度も腕を引き抜く挑戦をしました。しかし約360キロある大岩はびくともしませんでした。3日経ち、彼は脱水症状を起こし、精神錯乱状態となりました。自分の小便を飲みながらもう最後だと思い、腕を切り落とそうと止血して小さなナイフで傷をつけます。いくら切っても腕は抜けませんでした。4日目に腕を切り離すには骨を折らなければならないことに気付きます。しかし彼が持っていた道具では骨を折るには不十分だと知ります。5日目には渓谷の壁に自分の誕生日と死ぬであろう日付けを刻み、自身をビデオ撮影して家族に最後のメッセージを録画しました。おそらくその夜は生き延びられないだろうと覚悟していましたが、翌朝(2003年5月1日)の夜明けにまだ生きていることを知ります。そして骨を折るには腕をねじって力を加え、前腕部の2本の骨を同時にねじ切ってしまうことで何とか脱出できないかと考えます。ものすごい激痛が走りますが彼はそれを成し遂げたのです。自分の腕を力任せにねじ切る、という荒業でなんとか5日目に脱出できた彼は、家族が捜索願いを出していたレスキュー隊に山道を降下中に発見され一命を落とさずに済んだのです。体重は登山前と比べ約18キロも減少していたそうです。
この実話は『127時間』という題名で映画化されました。自分の腕を切り落とすか。自殺するか。何もせず飢えて死を待つか。究極の選択を彼はしなければなりませんでした。アイエンガー教授は「逆境の時に自分に何が出来るかリストアップして行くことは、逆境を克服するのに非常に効果的である」と教えます。「選択の力は万能ではないが、それでも明日の自分を作るためには効果がある」とも教えています。
さー私達は今後、どんな選択をしなければならないでしょうか。不安でもあり楽しみでもあります。